大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和29年(行)9号 判決

原告 太田義一

被告 墨田税務署長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が原告に対し昭和二十八年三月三十一日付でした原告の昭和二十七年分所得税の総所得金額を金四十三万四千七百円と更正した決定のうち金二十八万二千六百円を超過する部分は、これを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める旨申したて、その請求の原因として、

一、原告は昭和二十八年三月十二日被告に対し昭和二十七年分所得税の確定申告に総所得金額を金二十八万二千六百円と申告したところ、被告は昭和二十八年三月三十一日右総所得金額を金四十三万四千七百円と更正する旨決定し、同年四月一日その旨を原告に通知した。そこで原告は同月二十八日被告に再調査の請求をしたが同年六月九日被告は原告の右再調査の請求を棄却し、翌十日その旨を原告に通知した。原告は右決定に不服で同年七月一日東京国税局長に審査の請求をしたが、同年十一月十日同局長は原告の右請求を棄却しその旨を翌十一日原告に通知した。

二、しかし原告の昭和二十七年分の所得は原告の申告した金二十八万二千六百円を超過していないのであつて、被告の右更正決定のうち原告の所得である金二十八万二千六百円を超過する部分は違法であるからその取消を求めるため本訴に及んだ。

と述べ、被告主張事実に対する答弁として、

一、被告主張(1)記載の事実中

原告が被告主張のような職業を営む者であること、原告が審査請求において収入、必要経費及び所得として被告主張の額をそれぞれ主張したことは認めるがその他は争う。被告主張の原告が訴外服部光学株式会社(以下単に服部光学と略称する)から支払を受けた工賃のなかには、訴外大沢貢と共同で請負つた工賃が含まれており金三万六百三十三円は右大沢に支払われたものであつて原告の服部光学からの収入は金六万九千三百五十七円である。又訴外タカラ工業株式会社(以下単にタカラ工業と略称する)からの工賃は同会社から注文を受けたプレス加工の型を型製作業者に下請けさせた代金であつて実質的に原告の収入となるものではない。

二、被告主張(2)記載の事実中、原告が昭和二十七年中に被告主張の額の所得税及び区民税を納付したこと、同年中の原告の世帯員が被告主張のとおりであること、原告の建物の取得価額が金十五万円であること、旋盤、ボール盤、グラインダー及びモーターの取得価額がそれぞれ被告主張のとおりであることは認めるがその他の事実は争う。

原告は昭和二十七年中に建物に金四万円を支出したことはあるが、修繕のためであつて改築したものではなく資産の増加と関係がない。又原告の同年分の生計費は申告額から右建物の修繕費と税金を控除した金二十二万八千八百九十円程度である。「ハープレス」の取得価額は一台は三号で金十二万円、一台は四号で金五万円一台は五号で金三万円で合計二十万円であり、「ケトバシ」の取得価額は一台金一万円で合計金五万円で、「切断機」の取得価額は金一万円である。自転車の取得価額は一台一万八千円で合計三万六千円であるから減価償却当金は定額法によると合計金二万五千二百八十二円となる。

と述べた。(立証省略)

被告指定代理人は、主文第一項同旨の判決を求め、請求原因事実に対する答弁及び主張として、

一、請求原因事実中、原告の昭和二十七年分所得が金二十八万二千六百円を超過せず、被告のした更正決定が原告の所得を超過して違法であるとの点は争うが、その他の事実はすべて認める。

二、原告は昭和二十七年中に金九十七万四百三円の所得があつたと認められるから、右金額の範囲内で同年分の総所得金額を金四十三万四千七百円と更正した被告の決定はなんら違法でない。

(1)  原告は金属玩具類のプレス下請加工業を営み材料と型は全部注文先から支給を受けこれに加工して工賃を得ている者であるが、審査請求において収入を金三十五万七千八百三十円(工賃金三十四万二千八百三十円及び雑収入金一万五千円)、必要経費を金七万五千二百三十円、所得を金二十八万二千六百円であると主張し、右計数を裏付ける資料として工賃帳、経費帳及び請求書を提出したが、これらの記帳は次のような理由で信用することができなかつた。即ち右工賃帳には服部光学外九店(共同金属、坂入工業、初台製作所、日光電池、丸菱産業、河内玩具、村田玩具、日光玩具及び島津製作所)と取引があり、且つ右服部光学から金六万九千三百五十七円の工賃を受けている旨の記載があるが、実際には右十店以外にタカラ工業から昭和二十七年六月から八月までに金二万七千七百四十七円の工賃を得ているし、服部光学からは同年七月までに金九万九千九百九十円の工賃の支払を受けている。

右の両会社との取引は両会社が被告に提出した特別収集資料箋によつて偶々判明したものであつて、その他の取引先については原告はその住所を明らかにしなかつたので個々の調査が不可能であつた。このような訳で原告の記帳は信用できないので収支計算によつて原告の所得金額を把握することはできなかつた。そこで原告の同年中の資産負債の増滅を調査して原告の所得を推計することとしたのである。

(2)(イ)  昭和二十七年中原告の資産は次のとおり増加した。

項目

期首(円)

期末(円)

差引増加額(円)

建物I

一五〇、〇〇〇

一九〇、〇〇〇

四〇、〇〇〇

I参照

〃II

三五〇、〇〇〇

三五〇、〇〇〇

II参照

預金

九三、四七三

九三、四七三

III参照

生計費

四九六、六三〇

IV参照

税金

一三、七一〇

V参照

合計

九九三、八一三

I 原告は昭和二十七年四月に工場の一部と住宅の一部を金四万円で改築したものである。

II 昭和二十七年暮に原告は墨田区寺島一丁目二百十三番地に建坪十八、二五坪の住宅を新築し、同年中に請負人の株式会社北条工務店に代金三十五万円を支払つたものである。

III 原告には原告の弟太田栄次の名義で東武信用金庫に預金し、普通預金八万二百二十三円、定期預金一万三千二百五十円合計九万三千四百七十三円の預金が増加している。

IV 生計費は総理府統計局作成の消費実態調査年報による東京都における一世帯当りの平均支出金額より推計した。同年報によると同年中の世帯人員の平均は四、七七人で平均総支出金額は金二十三万六千八百八十九円であるから一人当りの年間平均支出額は金四万九千六百六十三円となる。原告の同年中の世帯人員は原告とその妻、長男、長女、弟栄次とその妻、その長女、弟正三及び原告の父母の合計十名であるから同年中の生活計費は金四十九万六千六百三十円と推計せられる。そして昭和二十七年当時においては原告は墨田区隅田町一丁目千三百五十五番地に妻、長男、長女、両親及び弟正三の七名で居住し、寺島町一丁目二百十八番地に弟栄次、その妻及びその長女を別居させその生活を異にしていたがその生活はすべて原告が負担していた。このように原告の家族は二世帯に分れて生活していたので二世帯分の費用を要したのであつて、右隅田町の住居では原告の父太田秀名義で昭和二十七年電気料金二千七百八十八円、ガス料一万三千五百一円、水道料金二千二百六十七円を支払つており、寺島町の住居でも原告或いは太田栄次の名義で同年中に電気料金一万七千百三円、ガス料金八千五百三十七円、水道料金九百二十二円を支払つていていずれも前記消費実態調査年報の一世帯の平均光熱費金一万二千六百四十五円、平均水道料金千百六十二円を上廻つており原告の生活に要する費用は被告主張の消費実態調査年報による生計費を上廻つていることを示している。

V 消費実態調査年報の生計費のなかには所得税及び住民税は含まれていないからこれを別に計上すべきところ、原告は昭和二十七年中に所得税及び区民税として合計金一万三千七百十円を支払つている。

(ロ)  昭和二十七年中の原告の資産の減少となるものは次の滅価償却引当金以外にはない。(償却方法は定額法による。)

項目

細目

取得価額(円)

計算基礎額(円)

耐用年数

償却率

償却費(円)

建物(1)

居宅兼工場

一五〇、〇〇〇

一三五、〇〇〇

二〇

〇、〇五

一、六八七

建物(2)

一九〇、〇〇〇

一七一、〇〇〇

六、四一二

ハープレス

三台

一二〇、〇〇〇

一〇八、〇〇〇

二五

〇、〇四

四、三二〇

ケトバシ

五〃

二五、〇〇〇

二二、五〇〇

九〇〇

旋盤

一〃

一〇、〇〇〇

九、〇〇〇

三六〇

ボール盤

一〃

六、〇〇〇

五、四〇〇

二一六

グラインダー

一〃

六、〇〇〇

五、四〇〇

二一六

切断機

一〃

五、〇〇〇

四、五〇〇

一八〇

モーター

一馬力

一〇、〇〇〇

九、〇〇〇

三六〇

自転車

二台

二〇、〇〇〇

一八、〇〇〇

〇、二五

四、五〇〇

合計

一九、一五一

建物を区分したのは前記のとおり昭和二十七年四月金四万円で改築したから同年一月から三月までの分は取得価額を金十五万円とし、その償却費の十二分の三に相当する額を、同年四月から十二月までの分は取得価額を金十九万円としてその償却費の十二分の九に相当する額をそれぞれ償却費としたものである。

(ハ)  以上のとおり昭和二十七年中に原告の資産は、資産の増加額金九十九万三千八百十三円から資産の減少額金一万九千百五十一円を差引いた金九十七万四千六百六十二円(被告提出の昭和三十一年十二月一日付準備書面に金九十七万四百三円とあるのは誤記と認める)だけ増加したことになり、原告は同年中に右増加に相当する所得があつたものと推測されるから、これより少額に原告の所得金額を更正した被告の決定は違法ではない。

と述べた。(立証省略)

理由

原告が昭和二十八年三月十二日被告に対し昭和二十七年分の所得税の確定申告として総所得金額を金二十八万二千六百円と申告したこと、被告が昭和二十八年三月三十一日原告の総所得金額を金四十三万四千七百円であると更正決定し、同年四月一日原告に通知したこと、原告が右更正決定に対し同月二十八日被告に再調査の請求をしたこと、被告は同年六月九日右原告の再調査の請求を棄却し、翌十日その旨原告に通知したこと、原告は右決定に対し同年七月一日更に東京国税局長に審査の請求をしたが、同年十一月十日同局長は原告の右請求を棄却しその旨を翌十一日原告に通知したことはいずれも当事者間に争いがない。

そこで原告の昭和二十七年分の総所得金額がいくらであるかを考えてみると、

一、原告が金属玩具類のプレス下請加工業を営む者であつて、材料と型とを註文先より支給を受けこれに加工して納品しその工賃を得ている者であること、原告が審査請求において収入を金三十五万七千八百三十円(工賃金三十四万二千八百三十円雑収入金一万五千円)必要経費を金七万五千二百三十円所得を金二十八万二千六百円と主張したことも当事者間に争いがないが、成立に争いのない乙第七号証の二、三、乙第八号証の一ないし六、八、十と証人荒川綱雄の証言によつて真正に成立したと認められる乙第一号証、乙第三号証、証人小早川和治の証言により真正に成立したと認められる乙第二号証、乙第七号証の一と証人荒川綱雄、同種山正一、同小早川和治、同大沢貢の各証言と原告本人尋問の結果(第一、二回)を綜合すると、原告が主張する所得額は、原告が納品した工賃の請求書の控を綴つたものから収入を算出し、これから大口のものをメモし、小額のものは大ざつぱに見積つて算出した必要経費を差引いて計算して得られたもので原告は帳簿を備付けておらないこと、右収入は服部光学外九名から支払を受けた工賃であるが、服部光学以外の取引先については原告方の所得調査赴いた東京国税局協議官荒川綱雄にその住所を明らかにしなかつたこと、原告は服部光学より支払を受け工賃収入を六万九千三百五十七円と主張したが同会社より原告が支払を受けた工賃は昭和二十七年中に金九万九千九百九十円であつて、そのなかには原告が大沢貢に下請加工させて同人に支払つた金三万六百三十三円が含まれているのを差引いて前記金額を右会社よりの収入であるとしていたこと、右原告主張の収入のなかには原告の抹養親族であつてその営業を手伝つている弟栄次名義でタカラ工業から昭和二十七年六月十三日から同年八月二十五日までの間に改札鋏等の註文を受けて得た収入金二万七千七百四十七円(内金二万五千五百円はプレスの型代として原告が下請業者である型製作人に支払つたものであるが、残余の金二千二百四十七円は原告の工賃である)が含まれていないこと等の事実が認められる。証人荒川綱雄の証言、原告本人尋問の結果(第一回)中右認定と矛盾する部分は措信することができない。右認定の各事実によると原告の所持する資料は正確なものということは困難で、これによつては昭和二十七年中の原告の収支を明らかにすることができないものといわなければならないから、原告の所得を総収入金額から必要な経費を控除して算出することは不可能であるといわなければならない。

二、そこで被告の主張する資産増減の調査による推計方法が正当であるかどうかについて検討する。

(一)  資産の増加について。

(1)  建物改築について。

原告が昭和二十七年中原告所有の建物に金四万円を支出したことは当事者間に争いがなく、原告本人尋問の結果(第一回)によると、原告は同年四月台所の板の間と土間を畳敷の部屋として改造し周囲の板を新しく取換えて改築したことが認められる。右認定と矛盾する証人荒川綱雄の証言、原告本人尋問の結果の各部分は措信することができない。原告は右四万円は建物の修繕費として支出したと争うけれどもその理由なきことは右認定の事実から明らかである。

(2)  建物の新築について。

原本の存在とその成立に争いのない乙第十二号証の一、成立に争いのない乙第十二号証の四、証人北条清次の証言により真正に成立したと認められる乙第十二号証の二、大蔵事務官多賀谷恒八、同塩崎朝博の署名及びその名下の印影部分の成立について争いがなく、文書の内容及び形式からその他の部分も真正に成立したと認められる乙第十四号証と証人北条清次の証言を綜合すると、昭和二十七年十月頃、原告は東京都墨田区寺島町一丁目二百十三番地に木造ゼメント瓦葺平家建居宅一棟建坪十八坪二合五勺を株式会社北条工務店に請負わせて代金約四十五万円で新築し、昭和二十七年中その代金のうち金三十五万円を同工務店に支払つたことが認められるから、原告の資産は右代金を支払つた分だけ増加していると認めるのを相当とする。

(3)  預金の増加について。

証人金子三郎の証言から真正に成立したと認められる乙第十三号証の一、二、三によると前記原告の弟である太田栄次名義で東武信用金庫に昭和二十七年一月十日金七千円を普通預金として預けいれて取引を始め、同年末現在の残高が金八万二百二十三円三十九銭であること、右栄次名義で同信用金庫に同年八月八日を第一回として毎月二千六百五十円宛定期積金として預金し、同年末日現在金一万三千二百五十円の預金が存在したことがそれぞれ認められる。右栄次は前記認定のとおり当時原告の扶養家族であつて原告の営業を手伝つていたものであるから、反証のないかぎり右各預金は原告の営業上の収入から原告が栄次名義でなしたと認めるのを相当とするから、昭和二十七年中に原告の預金が合計九万三千四百七十三円増加していることになる。

(4)  生計費について。

原告の昭和二十七年中の世帯人員が、原告とその妻、長男、長女、弟栄次とその妻、その長女、弟正三及び原告の父母の合計十名であつたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第四号証、同第十号証の一、二、三、同第十一号証の一ないし六によると、昭和二十七年中には原告の右世帯人員中原告の弟栄次その妻及び長女は墨田区寺島町一丁目に、その他の者は同区隅田町一丁目千三百五十五番地にそれぞれ住み、二世帯に分れて生活しており、隅田町の世帯では昭和二十七年中に電燈料金として二千七百八十八円ガス代金として金一万三千五百一円(光熱費合計金一万六千二百八十九円)、水道料金として金二千二百六十七円をそれぞれ支払つており、寺島町の世帯においても同年中に電燈料金として金一万七千百三円、ガス代金八千五百三十七円(光熱費の合計金二万五千六百四十円)、水道料金九百二十二円を支払つていること、総理府統計局の作成した消費実態調査年報による昭和二十七年の東京都における一世帯当り(一世常の平均人員は後記認定のとおり四、七七人)の光熱費金一万二千六百四十五円、水道料金千百六十二円であることが認められる。この事実と前記認定の原告が昭和二十七年中に金三十五万円を支出して建物一棟を新築したこと及び同年中に金九万三千四百七十三円の預金が増加している事実をあわせ老えると原告の昭和二十七年中の生計費は少くとも総理府統計局の調査による東京都における平均生計費と同等の生計費を支出したものと認めるのを相当とする。そして成立に争いのない乙第四号証によると同年中の東京都における一世帯当りの当均支出総額及び人員数は次表のとおりであると認めることができる。

人員

金額(円)

人員

金額(円)

四、八一

一六、三六三

四、七一

一九、三八〇

四、八七

一六、七八〇

四、六六

一七、九三六

四、八七

一八、六一三

四、七一

一八、四二〇

四、七五

一八、七四六

一〇

四、七一

二〇、一一九

四、七六

一八、八二五

一一

四、七七

二二、五〇六

四、七〇

一八、四〇四

一二

四、九〇

三〇、七七〇

従つて東京都における一世帯当りの昭和二十七年中の平均生計費の総額は右合計金二十三万六千八百八九円であつて、一人当りの同年中の平均生計費は金四万九千六百六十二円であること計算上明らかであるから、原告は同年中にその十人分合計金四十九万六千六百二十円の生計費を支出したと推認することができる。

原告は同年中の生計費は金二十二万八千八百九十円であると主張し、原告本人尋問の結果(第一回)のなかには右主張にそう供述部分があるけれども、前記の証拠と対比すると右供述は容易に措信することができず他に原告の生計費が右平均生計費以下であつたと認めることができるような証拠はない。

(5)  原告が昭和二十七年中に金一万三千七百十円の所得税及び区民税を支出したことは当事者間に争いがない。

(6)  そうすると昭和二十七年中に原告は金四十八万三千四百七十三円に相当する資産が増加し、金五十一万三百三十円を生計費及び税金として支出していることになる。

(二)  資産の減少について。

資産の減少は被告主張の建物、自動車及び機械類十三点の減価償却引当金だけであることは原告の争はないところである。そして改築前の建物の取得価額が金十五万円、旋盤の取得価額が金一万円、ボール盤及びグランダーの各取得価額がそれぞれ金六千円、モーター一馬力の取得価額が金一万円であることも当事者間に争いがなく、右建物について昭和二十七年四月金四万円を支出して改築したことは前記認定のとおりであるから、右建物については同年一月から三月までは取得価額十五万円とし、同年四月から十二月までは金十九万円として計算すべきことは所得税法施行細則第二条第一項第一号の規定により明らかである。

「ハープレス」は三号四号及び五号の三台であつて、右三台の価額が合計金十二万円の限度なることには被告の自白するところである。原告は右価格は合計金二十万円であると主張するけれどもこれを認めるに足る証拠はない。

原告本人尋問の結果(第一回)によると原告は昭和二十二年頃「ケトバシ」新品を一台一万円で五台、「切断機」中古品を一台一万円以上で買入れたことが認められる。

前記証人荒川綱雄の証言及び本件口頭弁論の全趣旨によれば「自転車」二台の取得価額は一台金一万円合計二万円と認めることができる。

従つて右認定の取得価額に昭和二十八年政令第六十九号による改正前の所得税法施行規則第十二条の十一第一項第一号、所得税法施行細則第一条別表一(建物及び自転車の耐用年数について)、別表二(機械の耐用年数について)及び別表七(償却率)を適用し定額法に従い計算した「ケトバシ」及び「切断機」以外の物件の減価償却引当金は被告主張額のとおりであり「ケトバシ」の減価償却引当金は金千八百円、「切断機」のそれは金三百六十円と計算されるからその合計額は金二万二百三十一円であつて、右金額が原告の昭和二十七年中に減少した資産となる。

(三)  従つて前記資産の増加分金四十八万三千四百七十三円から右資産の減少分金二万二百三十一円を差引いた金四十六万三千二百四十二円だけ昭和二十七年中に原告の資産が増加したことになり、これと前記生計費及び税金として支出した金五十一万三百三十円は原告の同年中の収入によるものと推定するのが相当であるから、原告は同年中に右金額合計九十七万三千五百七十二円の所得を得たものと認めることができる。原告は同年中の所得が金二十八万二千六百円を超過しないと主張するけれども、右主張の採用できないことは前記認定の事実から明らかである。

そうすると被告が原告の昭和二十七年分所得税の総所得金額を右所得金額の範囲内で金四十三万四千七百円と更正した処分は違法でなく、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟特例法第一条、民事訴訟法第八十九条、第九十五条を適用し主文のように判決する。

(裁判官 飯山悦治 松尾巖 井関浩)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例